2019年03月21日

林田さん







「いや、助かったよイツキくん。
こんな荷物、俺一人じゃどうにもならなかったよ。
あ、その段ボールは明日の分だからそのまま積んでおいて。そっちの紙袋も。
もう仕事、終わりでしょ? 帰り、送るよ。 大丈夫、乗って、乗って」



林田は出荷の商品を車に積み、あちこち回る予定だったが、思った以上に用件が重なり…、
見兼ねた社長がイツキを手伝いに同行させた。
力仕事はカラキシ駄目だったが、それでもいないよりはマシで
林田は感謝し、このまま家まで車で送ると言う。

イツキは一応、断るのだが、どうせ帰り道の途中だからと押し切られる。
さらに何か食べて行こうと、道すがらのレストランに入って行った。





「……実を言えばさ、俺んトコの会社でも得意先でも…女子ばっかりでさ。新しいメンズって貴重なんだよね。
この間の歓迎会はミカちゃんに仕切られちゃったしさ、もうちょっと、話したいなって思ってたんだよ」



歳は二十代半ば。背はイツキより少し高いくらい。意外と筋肉質。
日焼けはスポーツではなく、四六時中外回りをしている為だと笑う。
明るく爽やかな好青年。
……梶原が、社会に出たら、こんな風になるのかな……と、イツキも小さく微笑む。



「知り合い集まって、バーベキューとかするんだよ。先月は花見。上の方行くとキャンプ場もあって…、……する?……キャンプ?」
「いえ…。そういのは全然…。あんまり外で遊んだりとか…、しなくて……」
「へー。インドア派なのかな。…ゲームとか、パソコンとか…」
「いえ……」



言いかけて、言葉を止めて、イツキは少し考える。
自分の話をするときに、何も、話せるコトが無い事に、改めて気付く。



「……俺って、なんにも…、ないなぁ……。……お酒飲んで、テレビ見て、……寝るだけだなぁ……」


溜息まじりにそう呟くと、林田は笑って「……おっさんかよ!」と言い、しばらく間を空けてから、

「……酒!?」

と、ツッコミを入れるのだった。






posted by 白黒ぼたん at 00:03| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
いっちゃん、完全なるインドアですね。
外にはほぼいないイメージ…
Posted by はるりん at 2019年03月21日 07:01
しかもいっちゃんのドアは
寝室のドアですからね〜笑
Posted by ぼたん at 2019年03月24日 00:07
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