2019年04月04日
イツキ・2
「…元気?……ちゃんと、ご飯、食べてる?」
『……………ああ』
夜。
「こじれる前にサクっと連絡を入れる」という林田のアドバイス通り、まるで2,3日前にも会っていたぐらいの気軽さで、イツキは黒川に電話をする。
拍子抜けしたのは黒川の方だった。
『…何だ?………勝手にやって行くんじゃなかったのか?』
「まあね。……まあまあ、やってるよ。ふふ。……あのさ、マサヤに頼みがあるんだけど」
『…何だよ』
「俺の服、ちょっと送って欲しいんだ。クローゼットの…適当に…。少しは買ったりしたんだけど、やっぱり着慣れた服の方が良くって…。住所は一ノ宮さんが知ってるから。あ、あと、洗面所のブラシ…、豚毛の……」
イツキの頼み事に、黒川はふんと、鼻で返事をする。
本当は、もう帰りたい…だの、会いたいだの、……そんな言葉を待っていた、……訳ではないと必死に自分に言い訳しているのかも知れない。
『……それだけか?』
「………んー……。あと、あれ…食べたい。……塩豆大福」
『そんなもの、どこにだって売ってるだろう』
「違うよ。…事務所の近くの和菓子屋さんのだよ。……俺、あれ、好き……」
以前の暮らしを思い出し、少し切なくなったのか、イツキの声が小さくなる。
「……生ものだから無理かな。……硬くなっちゃうかな…。無理なら、いいや。……ふふ。
……じゃあね、またね」
このままでは泣き出してしまう、と、最後は明るく振る舞って
イツキは電話を切るのだった。
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悲しいです。泣いちゃいます。
いつになったら元に戻れるのでしょうか…
やっと本当の気持に気付く…
……と、いいですねー