2019年04月08日
イツキ・6
「馬鹿か、お前は。確認もせず安易にドアを開けやがって。読みもしない新聞を取る気だったのか?…新聞屋で良かったものの…上がり込まれたらどうする、ヤられるぞ。
せめてオートロックの部屋にしろ。今時、探したって見付からないぞ、こんなボロアパート…」
新聞屋の代わりに部屋に上がり込んだ黒川は、そこいらをぐるりと見回して、一通り、ケチを付ける。
「……染みったれた暮らしをするなよ、貧乏臭くなる。……なんだ、こっちの部屋は段ボールか…、……物置なのか?ここは」
「………会社の、……在庫置き場なんだよ。……マサヤ、……何しに来たの?」
「はァ? 荷物を送れと言ったのはお前だろう?……手間の掛かる……」
荷物は、アパート前の通りに停めた車に、まだ積んであるらしい。
……少し前に到着していて……さて、どんな顔でイツキに会うかと、車内で一服している時に、部屋に押し入る新聞屋を見掛けたのだ。
「……気を付けろよ、お前なんか、どこに行ってもいいカモだ。新聞もセールスも、簡単に引っ掛かりそうだな…。金の次は身体か、…すぐに男が寄ってくる……、大体……」
「………マサヤ」
悪態ばかりを並べる黒川に、イツキは、正面から抱き付く。
背中に手を回し、胸に顔を埋め、ぎゅっと力を込める。
「………久しぶりに会ったんだから、文句ばかり、言わない。俺、マサヤに、会いたかったんだから………」
「……………ふん」
「…マサヤは?」
胸に顔を埋めたまま、イツキは視線だけを上げ、黒川を見つめる。
離れてから、一か月と少し。これだけ別れていたのはあの、小野寺の一件でイツキが家出をした時以来。
……いや、その時よりも長いかも知れない。
「………会いたいから、わざわざ、来てやったんだろう」
そしてその時よりも、間違いなく、互いの情は深くなったのだろう。
……黒川が、こんな言葉を、吐くようになったのだから。
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すごい!こんな事を言わせるいっちゃん、愛されてますね〜
黒川、ずいぶんと変わったこと…
鉄板でしたね。ハンバーグ!笑笑
はるりんさま
うっかり言っちゃいましたよ。ヤキが回りました。
ま、たまにはこんな黒川もいいかなーと