2019年04月12日
イツキ・8
「………もう、帰るの?」
「……ああ」
コトが終わり、少し眠り、目が覚めたかと思えば、もう帰るのだと言う。
揉めていた光州会とは一応の話が付いた事。
それでももう暫く…ほとぼりが冷めるまで、イツキは黒川の近くにいない方が良いだろうという事。
さらにありがたくないことに、別件で、イツキに『仕事』の依頼が来ている事。
そんな現在の状況を、ざっと説明する。
「……じゃあ、もうちょっと…、……このまま?」
「ああ」
「……2、3か月くらい…、とか?」
「ああ」
外に停めていた車から、荷物を運んで来る。
旅行用の大きなバッグに、本当に適当に突っ込んだという風に、イツキの洋服が詰め込まれていた。
…中に、……特に意味は無いのだろうが、黒いスーツまであって、……イツキは少し不機嫌な顔になるのだが、黒川はそれに気付いていない。
「まあ、向こうにいて、四六時中、男に狙われるのも嫌だろう?…笠原の時のように、見張りを付けてもな……」
「そうだね。俺、こっちで気楽にやってるから、大丈夫」
イツキはむくれ、他所をむいたまま、ぶっきらぼうに答える。
確かに、黒川の言う通り、常に身の危険を感じながらの生活も嫌だが、……もう少し、どうになならないものかと…思う。
黒川はそんなイツキを横目で見て、ふふ、と笑う。
「…………また、来てやる」
荷物の中の紙袋を、イツキに手渡す。
そこには、イツキが欲しがっていた和菓子屋の、塩豆大福が入っていた。
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