2019年06月10日
極楽・6
男は三十代といったところか。筋肉質の立派な体格、飄々とした顔立ち。すでに濡れ、額にかかる前髪の間から覗く、鋭い眼光の細い目。
それよりも、何よりもイツキの目を奪ったのは、両肩に彫られた鮮やかな文様の刺青だった。
男は構わず、イツキから少し離れて、風呂に入る。
両手で湯をすくうと顔をざぶざぶとやり、そのまま前髪を後ろに流し、ふうと息を付く。
喧嘩で付けたのだろうか、腕には何かしらの傷跡が残る。
あまりじろじろと見るものではない。けれど、イツキは目が離せなくなる。
イツキが注視していることに男も気付いたのだろう。もっとも、注目を浴びることは解ってはいる。
「……悪いな」
「………え…」
「……この時間なら構わんと、了承を得ていてな……」
言われて初めてイツキは、自分が不躾にもそれを眺めていた事に気付く。
公共の大衆浴場で、この種類の人間が拒否されている事を、イツキが知らない訳はない。
謝罪の言葉を口にし、ようやく視線を外し、我関せずと他所の方を向く。
「……兄ちゃんも、ずい分、早い風呂だな。やっぱり、アレが目当てか?」
「……えっ」
「朝イチのビン牛乳サービス…だろ? ははは…」
半分冗談めかして男は笑い、またざぶざぶと顔を洗う。
どこか高圧的な、上からの物言いが、………どこか黒川に似ていた。
そして気付くと今度は、男が、イツキから目を離せなくなっていた。
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ヤクザですよ!まずいですよね(・_・;
いっちゃん、ちょっと親近感・笑