2019年09月04日

イツキロス








「……この店は先週までにカタを付けろと言っただろう、まだ120万、足りないぞ。大久保のピンサロも同じだ。ホステスのリストはどうした?
…内装屋は連絡したのか?…中央通り店の件だ、ソファが安物過ぎる、入れ替えさせろ。
書類が揃っていないだ?ふざけるな、昼寝でもしていたのか、ボンクラが……。
………くそ、茶が熱いぞ、佐野!」


西崎の事務所で仕事のチェックをする黒川を、西崎も佐野も恐々と遠巻きに眺める。
今日は特別、虫の居所が悪いらしい。いつもより一層細かい指示が飛ぶ。


「………どうしたんスかね、……社長…」


佐野は新しいお茶を淹れながら、小声で、横に居た一ノ宮に尋ねる。

一ノ宮は「……さあ」と言って、苦笑いを浮かべる。



まさか、週末に全ての仕事を放ってイツキに会いに行き、戻ってみれば喪失感で苛立っているなど…、本人の前で言えはしないだろう。







手を伸ばし、イツキの肌に触れる。
男のくせに極めの細かい滑らかな肌が、手の平に馴染む。
眠りかけていたイツキが顔を上げ、視線を寄越す。
これ以上近づけないほど、近くにいるというのに
さらに身体を摺り寄せ、互いが目の前にいることを確認する。

そんな、ごくありふれた時間が実は久しく、そしてまた……遠くなる。


無くなると途端に欲しくなる。
必要なものなのだと気付かされるのが腹立たしい。








「……西崎、契約印の位置が違う!こっちは控えだろう!」
「はいはいっ、スミマセン」


捲し立てる黒川を見ながら一ノ宮は、……これならば今日の仕事は早く片付きそうだ…と、小さく笑った。





posted by 白黒ぼたん at 23:34| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
黒川さん自分の寂しさを仕事でなんとか誤魔化そうとしていますが、行き所のない気持ちを色んな所にぶつけていますね
黒川も寂しいと思っているんだ〜
黒川も普通の人で嬉しいです
私は一ノ宮さんが好きです!
Posted by はるりん at 2019年09月05日 15:12
人間臭い黒川。
それに戸惑っているのは、黒川自身でしょう。

それを見ている一ノ宮さんは、楽しそうですww
Posted by ぼたん at 2019年09月06日 00:12
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