2019年09月06日
景虎大吟醸
「お疲れ様です、社長。いや、思ったより早く片付きましたね。中央通り店のソファも、あの、黒の革張りが入って良かったです。やはり見栄えが違う」
「輸入モノだからな、残りの納入時期だけ確認しておけ」
「はい、チェックリストに入れてあります。来月のリニューアルには間に合うでしょう…」
西崎の事務所での仕事も一通り終わり、黒川と一ノ宮は自分たちのオフィスに戻る。
週末、仕事をサボったツケをどうにか回収し、黒川はふんと、鼻息を鳴らす。
上着を脱ぎ、ソファにどかりと座り、足をテーブルに投げ出す。
「さて、……少し、飲みますか? 景虎の大吟醸が残っていますよ?」
黒川の返事を待たず一ノ宮はグラスを持ち、テーブルの、黒川の足が載っていない場所に置く。
向かいのソファに座り、グラスに酒を注ぐ。乾杯でもするように少し傾けると、先に口を付ける。
「…なんだよ。……楽しそうだな、一ノ宮」
そう言って黒川は、日本酒を飲む。一ノ宮は静かな笑みを浮かべる。
「……まさか、本当にイツキくんの元に行くとは、思いませんでしたよ。しかも、帰って来ないなんて……」
「…………イツキが、………帰るなと駄々をこねて…」
「ふふ。……そうですか…」
一ノ宮は、ハイハイ解っています、という風に何度か頷く。黒川のグラスが一瞬で空になってしまったので、そこにまた酒を注ぐ。
『………マサヤ、帰っちゃ、……や』
今にも泣き出しそうな目でそう言ったイツキを、黒川は思い出していた。
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もう撫で回したい!
素で、言えるなら、それこそ怖いっ