2019年09月12日
数日間
それから数日は何事もなく、普通に過ぎて行った。
仕事は、来週に迫ったイベントの準備で忙しく、イツキもミカも無駄なお喋りもせず、真面目に取り組んでいた。
小森は仕事の合間に手作りのクッキーなどを振る舞う。急に、雰囲気が穏やかになった理由は……まあ、どうでも良く。
林田も、半ばハーバルの社員のように、ハーバルの仕事を手伝う。
イツキを見るとまだ気持ちの整理が付かず、胸が痛くなったが、その答えを出すのは取りあえず後にしておく。
時間を空けることで、良く解らない感情が落ち着いて行くことを、オトナの林田は知っていた。
後々、その方法は、「イツキ」相手にはあまり通用しない事を、身をもって知るのだけど。
黒川も相変わらず、忙しく仕事をしていた。
某所の工場跡地を買収し、開発業者に売り付けようと、西崎を連れ立って少々荒い交渉を繰り返していた。
この案件が片付いたら、次は笠原の方を片付けるか…と、頭の片隅で思う。
思いながらも、その手間を掛ける事に、本当に意味があるのか…とも、思う。
その疑問に、一ノ宮は気付いていたが、何も言わない。
「イツキ」の事で泥臭く動く黒川を、半分は、やっと人並みの感情を持てたのかと嬉しく思い、半分は……疎ましく思っていた。
この世界にいる以上、もっとシビアにダークに生きて然るべきなのだ。
それを、気まぐれで手に入れた一人の少年のために、狂わせるのは如何なものか。
まあ勿論、そんな葛藤は、黒川本人が一番解っているだろう。
夜、眠る前にイツキは黒川にメールを入れる。
返事が来るのは、大抵、真夜中過ぎ。
イツキは布団の中でケータイを開き、短い、黒川からのメールを眺めた。
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