2019年09月12日
火種
「黒川、イツキに逃げられたって本当か?」
吉村が、開口一番、そう尋ねる。
たまたま仕事で顔を合わせ、久しぶりに飲みに連れ立った近くのBAR。
吉村は友人という程ではないが、仕事仲間の内ではまあ気心が知れた間柄。
何度かイツキを抱かせたこともあるし、イツキにとっても吉村は好きな「客」の一人だった。
大真面目に、イツキを譲れと、言い出した事もある。
「……どこでそんな話を聞いた?」
「いや、あちこちで聞くぜ? お前がイツキに入れ込み過ぎて…、ほら、「仕事」にも出さなくなっただろ? 独占して溺愛して束縛して、挙句、逃げられたって……」
「……は…は」
当たらずとも遠からず。反論はあるが、まあ、すべてが間違ってもいない。
黒川は適当に笑って、カウンター席に座り、ウイスキーのロックを注文する。
「……まあ、そんなトコロだ。……あいつがいないと、余計なトラブルも減って、いい…」
「なんだよ。手放すなら俺にくれと言っただろう?……勿体ない」
「もれなく揉め事も付いてくるがな。……吉村、……池袋の嶋本組と、光州会が組んだ話、聞いたか?」
もののついでのように、黒川が吉村に聞く。
吉村は、それが本題なのかと、薄く察する。
「……嶋本組本体じゃなくて、そこの若頭補佐が動いたって聞いたぜ?……まあ、光州会も代が変わってバタついていたしな…。……それが火種か?」
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