2019年09月14日
蒔いた種
「……若頭補佐が元気が良くてな。…よく吠えて来る。とにかく、何でも…騒ぎを起こして…、その隙にのし上がろうという手合いかな、……ふん」
手に持ったロックグラスを揺らしながら、黒川はそう言う。
氷がからんと音を立て、崩れる。
割合、親しい間柄の吉村とは言え、同業者だ。すべての事情を話す事は出来ない。
「イツキが巻き込まれたのか?…どうせ、貸す、貸さない話だろう。お前、結構、雑に扱ってたからな、あの子のこと…」
「……そうでもないだろう?」
「だから逃げられたんだろう?……それとも、逃がしたのか?」
事の真相を探ろうと、吉村がぐっと黒川の顔を覗き込む。
その視線を黒川は軽くかわし、ふんと鼻先で笑い、グラスを口に付ける。
吉村も酒を飲み、黒川の答えを待つのだが、肯定も否定も、返事は無い。
「………なら、見付けたモン、勝ち…、かな。なあ、黒川?」
「……馬鹿を言え、イツキは、俺の、だ」
「なら、首に縄でも付けて手元に置いておけよ。……どうなっても、知らないぜ?」
その言葉に一瞬、黒川が当惑の色を見せたのを、吉村は見逃しはしなかった。
黒川はイツキを手放した訳ではない。未だに黒川の所有物で、…どうにかなっては、困るものなのだ。
「……揉め事を起こすのは、イツキじゃなくて……、黒川、お前なんじゃないのか?
元はと言えば、お前が蒔いた種なんだろ?」
「……ふん」
黒川の返事は不愛想な鼻息のみ。空のグラスをテーブルに置いた。
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吉村さん、もっと言ってやって〜
本当に、揉め事の大元は黒川なんですよねー。
ちゃんと責任取って欲しいです。