2019年09月18日

小さな影







黒川との電話が繋がったのは、午前二時。
黒川にすれば仕事の合間の普通の時間なのかも知れないが、イツキには、夕方から何度も何度も連絡を入れ、折り返しを待つのも諦め、布団に入った時間だった。


『何だ?』
「……何って…程でもないけど…。……マサヤ、明日の土曜日はこっちに来るのかなって…」
『そう毎週、行っていられるかよ。…それだけか?』
「……え、いや。えーと……」


最初に電話を入れた時には、仕事で褒められた話や、ショッピングモールのトイレで痴漢に遭った話や、イロイロ…言いたい事があったのだけど
一眠りしたら、どうでも良くなってしまった。
目を閉じて、ケータイの向こうの黒川の、息遣いを探る。


「……じゃあさ、俺…、来週の土曜日は…そっちに行くんだけど。……ウチ、寄っても良いかな?」
『…銀座で石鹸を売るとか言っていたな』
「…石鹸…、まあ、そうだけど…。デパートの売り場の手伝いで、でも途中、時間が空きそうで……」
『いや。来るなよ。銀座でも近いぐらいだ。目立つ動きはするな。売り場の奥に引っ込んでいろ』


つっけんどんにそう言って、黒川は他に用事があるのか、電話を切ってしまった。
『じゃあな、また後で連絡する』その言葉を信じて待って、連絡が来たためしはない。







黒川は、先日ふいにここに来た時は、優しかった。

それはもう、遠い昔のことのように思う。

足りない言葉も辛辣な態度も、諸々事情や深い考えがあってのこと…と、慮ってやるのだけど、それでも誤魔化せるものでもなくて。


イツキの心に小さな影を作る。それはイツキ自身、気付かない内に。





posted by 白黒ぼたん at 22:49| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
黒川、もっと思いやりの言葉を発しなさいよ!
いっちゃん、せっかく東京に戻るのに
ちゃんと会ってあげてね
黒川との電話息が詰まりそうです(ノД`)
Posted by はるりん at 2019年09月19日 06:54
いっちゃん、久々東京。
黒川に会えるかなぁ…。
それはそれで問題が起きそう…
Posted by ぼたん at 2019年09月20日 19:15
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