2019年10月07日
誘惑
黒川が意地悪で言っている訳ではないと、イツキにも解っている。
未だ、光州会や笠原との調整は続き、円満解決に向け黒川は尽力中…だと言う。
行方をくらましているはずの自分が、辺りをウロチョロしていては、まとまる話もまとまらなくなるのか。
掴まって、強行手段に出られても、困る。もう暫くは、姿を見せない方が良いのだろう。
「……じゃあさ、イベント終わった後は? 次の月曜日は、会社、お休みにするって社長が言ってたよ。……遊びに行こうよ、イツキくん!」
「……俺は…、……行かないよ、こっち、戻んなきゃ……」
「…ええー。せっかくの銀座なのに、勿体ないー」
誘いを断るイツキに、ミカは唇を尖らせ、拗ねる。
都会の夜を楽しみたいが、実を言えば一人というのは、心許ないのだろう。
イツキは「ごめんね」と小さく謝り、冷たいお蕎麦と一緒に、誘惑を飲み干す。
本当は、イツキにだって、行きたい場所がある。
『…イツキちゃん、こっち来るんでしょ?……夜、俺んち、おいでよ』
数日前、ミツオからメールが来ていた。
黒川が駄目と言うなら、では、ミツオの所に。
と、まさかそんな事は考えないけれど。
お蕎麦のつゆを飲み干しても
少しだけ、思いが、残る。
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