2020年03月08日
それから
それからは、忙しかった。
ハーバルの社長に仕事を辞める事を伝え、イツキが受け持っていた作業を整理する。
ここに来て三か月にもならなかったが、意外と受け持ちは多く、結構な仕事量だった。
新たに補充すると言っていた人員とも顔を合わせ、仕事を引き継ぐ。
「……あたしは、嫌!……イツキくん、ずっとここに居てよ!」
ミカはそう言って泣いて、駄々を捏ね、どうにかイツキを引き留めようとしていた。
もっとも、最初から…いつかは帰ってしまうと解っていたのだし、…どうにもならない事だった。
あまりイツキに関心が無さそうだった小森でさえ、寂しくなるわねと肩を落とし
「…リーフレット封入は…ミカちゃんより丁寧で早かったのに…、……残念」と溜息を付いた。
林田を招いて送別会も催された。
林田も、寂しくない訳はないが、今はミカと付き合っている手前…それを大っぴらに表すことも出来ない。
イツキは隣りの席で酒を飲み、頬を赤く染め、「……イロイロ、お世話になりました」と言って、意味深にニコリと笑う。
「………いや、………俺こそ、………イロイロ……」と林田は口籠り…、湧き上がる気持ちを誤魔化すように手元の酒を一気に飲み干した。
松田にも、新宿に戻る事を伝える。
僅かな時間を縫い、一緒に夕食を取る。
「……急だね。……まあ、でも、黒川さんが放っておく訳ねーもんな」
「…でも、まだちょっと…、迷っちゃいます。……ここも、好きだったので…」
「…ん? それは、俺のこと? 俺が好きだったってコト?」
そう言って、松田はハハハと、笑った。
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