2020年03月10日
惜別
「……本当にお世話になりました。ここで働けて、良かったです。ありがとうございました」
最後の日。
イツキはハーバルの社長にアパートの鍵を返し、深々と頭を下げる。
本当に、……黒川に突然放り出された時には、どうなる事かと不安で仕方が無かったが……、ミツオに助けられ、ハーバルに居場所を見付け
周りの人たちのお陰で、日、一日、繋ぐことが出来たのだと思う。
もちろん、ミツオにも、ハーバルを辞めることは連絡した。
ミツオにすれば、イツキが新宿に戻ってくるのだから、それはそれで、良い話で
戻ってから、ゆっくり会って話をしようと、約束をしていた。
「こちらこそ。短い間だったけど、助かったよ。フェスタもあったしね。
……ウチね、もしかしたら都内にショップを出すかも知れなくて…、…もしそうなったら、また手伝って貰いたいなぁ…。……連絡しても、いいかな?」
「あ。……俺、……どうなるか解らないですけど…、でも……連絡、欲しいです」
社長とそんな話をし、お互い何度も頭を下げる。
隣りではずっとミカが、ぐずぐずと泣いているので、思わずもらい泣きしそうになる。
社長夫人に、お餞別にと、小さな包みを貰う。
駅までにと呼んであったタクシーが到着し、クラクションを鳴らす。
「じゃあ。行きます。本当に、ありがとうございました」
最後にもう一度、深く頭を下げ、イツキはハーバルを出て行った。
「…………楽しかったな…、……ここ……」
タクシーの中で頂いた紙袋を覗いてみると、電車の中で食べられるようにと、お茶と、おにぎり。
それに、ハーバルの製品が詰め合わせになったものが入っていて
そこからイツキは、涙が止まらなくなってしまった。
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皆さん、色々ありましたが、いい人ばかりで、最後のおにぎり、ジーンときました
暮らした時間でしたね。
貴重な体験させて貰いました。