2020年03月12日
帰郷
夕方。マンションに帰り着く。
フェスタの時に一度立ち寄っているのだし、そう懐かしいという程では無いが…、感慨深い。
途中、黒川の事務所に顔を出そうかとも思ったが、手荷物もあるし、疲れたし。
何より、黒川の、『打ち合わせ中だから、来るな』のメールが気に入らなかった。
「……俺が、今日、帰るって…知ってるのに。……まあ、迎えに来なくていいとは…言ったけどさ……」
それでも、部屋に入れば、憂鬱な気分は嘘のように晴れる。
本当に、自分の家に帰って来たのだ。嬉しくない筈はない。
台所とリビングと寝室を覗いて、何か変わった所はないか確認する。
冷蔵庫の中は空っぽだった。……タッパー詰めの総菜があっても、困るところだが。
洗面台も、風呂場も、見る。
自分が使いかけだったローションが、使いかけのままの状態でそこにあって、安心する。
陽も落ち、窓の外にはきらびやかなネオンが灯る。
向こうとは、比べる事もできない派手な景色。
その中で生きて来た時間は決して、幸福なものばかりではなかったけど、今はただただ、安堵感で一杯だった。
少し経って、黒川が部屋に帰ってきた。
「あ。おかえりなさい、マサヤ」
「………ああ」
そう言ってイツキは、離れていた時間など無かったかのように、ニコリと笑った。
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