2020年04月10日
武松寿司
イツキは黒川に連れられ、寿司屋に来ていた。
以前、暮らしていた街のあたり。今の場所からは少し離れているのだが
お土産で持たせてくれる厚焼き玉子がイツキの好物で、たびたび、話題に上っていた。
「……お店、来るの、久しぶりかも…!……嬉しい!」
古い店内。黒川は顔なじみの大将に軽く頭を下げ、今日はカウンターではなく小上がりに座る。
奥まったこの席で何度か、イツキは隠れる様にして酒を飲んだのだが…、ようやく最近は、………そうは言ってもイツキが成人するまでにはあと半年あるのだけど………、気にせず酒を飲めるようになった。
変におどおどと、辺りを気にする素振りを見せなくなった。
「……マサヤはよく来るの?……俺がこっち戻った時も、ここのお土産、あった……」
「…この先に…、面倒を見ているクラブがあって、……その用事ついでに、寄るくらいだな……」
「……ふーん」
あくまで「ついで」と言い張る黒川に、イツキは鼻で答え、目の前に並んだ小鉢に手を付ける。
酒のツマミに簡単に用意されたものだが、どれも旨い。
「…煮物?美味しい。冷たいけど。……この、ぷるぷるしたの、何?」
「…そちらは、アナゴの煮凝りですよ。…はい、今日のおススメ、スズキの昆布締めです。……黒川さん、八海山のいいのが入ってますけど、いかがですか?」
「………ああ、貰おうか」
静かな寿司屋で酒を飲んでいると、とたんに自分がオトナになったような気がする。
イツキは気付かれないようにふふふと笑いながら、小さなグラスを手に持ち、黒川の酌を受けた。
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