2020年04月29日
知らない人
東京駅構内にある大きな商業施設。その一角に、期間限定で様々なショップが入るブースがあった。
今回のハーバルは三日間。
けれど所詮、田舎の石鹸屋。ネットで多少、名が売れ、「オーガニック・フェスタ」で好評だったからと言って…、まだまだ、メジャーとは程遠い。
「……ヤバイ、イツキくん。……あたし…緊張してる。…手、めっちゃ震える……」
「……俺もです。……ヤバイです……」
準備などでバタバタ動いているうちは良かったが、いざオープンして辺りを見渡すと…急に怖くなってくる。
フロアにはイツキでも名を知っている様な有名ブランドが並び…、働く人は皆、スタイリッシュでハイセンスでスマートでラグジュアリーに思える。
「………あ、あたしたちには…、……まだ…、早すぎた……」
苦虫を噛み潰したような顔でミカが呟く。
そんなミカを見て、イツキも余計に不安になる。
それでも昼前には数人の客が訪れた。
ホームページの告知を見て、来てくれたのだと言う。
「…ハーバルさん、いつも都内にお店出しててくれるといいのに。…この香り、好きなの」
と、声を掛けてもらい、イツキもミカもやっと緊張の糸がほぐれてきた。
「ありがとうございます」と、イツキはブースの外まで出て、客を見送る。
ふと、向かいの店の鏡に映った自分の姿が目に入る。
見慣れぬスーツを着て、こんな明るい綺麗なフロアにいる自分が、まるで知らない人みたいで……
自分でも驚いた。
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