2020年05月07日
二日目
朝。黒川が起きた頃にはすでに、イツキは仕事に出た後だった。
キッチンには黄身が破けた目玉焼きとウインナー、それと「行って来ます」のメモ書きが置いてあった。
二日目になると少し、場所にも仕事にも慣れてくる。
お祭り騒ぎだったフェスタほど忙しくもなく、手が空くとイツキとミカはブースの中で、あれこれとお喋りを始める。
「………でね、新しい人が入ったんだけど…結構な歳のおじさんでね……いい人っぽいんだけど…、仕事がねぇ……。前の会社、リストラされちゃったんだって……」
「小森さんはどうしたんですか?」
「ご主人の実家で何かあって、よく解んないんだけど…、でも、もう、あんまり仕事には入れないみたいな事言ってて……」
話の途中にふらりと客がブースを訪れる。もともとハーバルを知る人でなければ、あまり、興味を惹かない品揃えかも知れない。
それでも使っている素材の説明をし、サンプル品を渡すと、『…いい香り』とニコリと笑ってくれる。
まだまだ知名度が低いハーバルだが、こうやって少しずつでも、名前を憶えて貰えればと思う。
「……都内に常設店って話、本当みたいだよ。そしたら、イツキくん、一緒にやろうよ」
「………そうだね。……働けたら、…いいなぁ……。……俺、結構好きなんだよね、…ハーバルの仕事……」
リーフレットを丁寧に折り、サンプルと一緒にまとめながら、イツキはふうと一つ息を吐く。
顔を上げた正面に、見知った男の姿があった。
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