2020年05月13日

語るに落ちる







夕方、事務所で。
黒川と一ノ宮はいつものようにアレコレ仕事中。


「……ああ、そう言えば東京駅のイツキくん、今日が最終日でしたか?」
「………さあな」


相変わらず黒川は興味の無さそうな口ぶり。
実際、この三日間、イツキとロクに話もしていないので、イツキの予定など解らないのかも知れない。


「今日は特に予定もありませんし…、……ちょっと様子を見に行かれてはどうですか?……イツキくん、頑張っていますよ、きっと」
「………あんな女ばかりの売り場に行けるかよ。しかも、臭い」
「そうですね、海外ブランドの化粧品屋が多い場所は、ちょっと独特な匂いがしますね。……外の通りからは、姿、見えないんでしょうかねぇ…」
「……少しはな」



何気にそう話して、少し間が空く。
黒川が一ノ宮を見ると、一ノ宮は柔らかく笑う。



「いつの間に?……見に行かれたんですか?」



黒川はふんと鼻息を鳴らす。


別に隠すつもりもないが、言うつもりも無かった。
イツキの様子が心配で覗き見たわけではない。……初日に、イツキを仕事先まで送ってやった時に、ついでに少し、姿を見ただけだ。


黒川がそれ以上語ろうとしないので、一ノ宮もその位にしておく。あまり詮索しては機嫌を損ねるに決まっている。



「……何時まで仕事ですかね。…たまにはこちらに寄ってくれれば良いのですけど。イツキくんの好きな焼き鳥屋さんに行くのも良いですね」


そう、笑いを堪えながら、一ノ宮は言った。





posted by 白黒ぼたん at 19:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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