2020年06月19日
塩豆大福
「おや、イツキくん。今晩は」
夕方。
事務所に寄ると、一ノ宮が一人。
変わらず穏やかに微笑み、イツキを迎えてくれた。
「…すみません。急に。…帰る途中で寄ってみたんですけど…。……マサヤは?」
「ああ、社長は今しがた西崎さんと出掛けましたよ。…何か、お約束でしたか?…社長、おそらく帰りは遅くなりますよ?」
「……いえ。……寄っただけなので……」
どうしたものかと入り口で立ちすくむイツキに、まあまあお茶でもと、一ノ宮が中に招く。
緑茶はティーパックだけれど、美味しい塩豆大福がありますよと、イツキをもてなす。
「ありがとうございます」
「いえいえ」
「……あ、一ノ宮さん。この間は…、あの、東京駅の……、お騒がせしました。ありがとうございました」
「いいえ。……ナニゴトもなく、良かったです」
一ノ宮も自分のカップに茶を淹れ、イツキの前のソファに座る。
「…大丈夫でしたか?……、社長に、…怒られたり、しませんでしたか?」
「あ…、……大丈夫です」
「あの場所で小野寺会長に会うのは…、イレギュラーでしたね。それでも、…そういう事態は、……これからも起こり得るのでしょうね…」
めずらしく真面目に静かに、一ノ宮はイツキに言葉を掛ける。
黒川と一ノ宮がどの程度、イツキについて話をしているのかは…知らないけれど。……黒川に誰よりも近いのは一ノ宮なのだ。イツキに
迷惑を掛けず、トラブルを起こさず、黒川の庇護のもとに居ろと、命じてもおかしくはない。
「イツキくん」
「………はい」
「…社長は何だかんだとウルサク言うでしょうが……」
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