2020年07月02日
バカンス・5
イツキは恋愛対象として男が好き、という訳でもない。
ただ、その行為の経験が多過ぎるために、どうあってもすぐに、……それが、思い出されてしまう。
エサの時間のベルで涎を垂らす犬のように、男が傍に寄っただけで…、……何かが垂れる。
かといって、そんな自分に驚いたり恥ずかしがったりする事にも、もう慣れていた。
ましてや普通の一般人相手に、色目を使うような真似も、そうそう、しない。
「……ああ、かあちゃん?何?……もう電車乗ってるよ。……ああ?シゲんとこ寄るから晩メシはいらんて。……わかった、わかった、ほんならもう切るよ?」
男は途中、掛かって来た電話に小さな声で対応する。小さな声と言っても、隣に座るイツキには丸聞こえだった。
通話を終えるとイツキと目が合う。男が、スミマセンという風に頭を下げるとイツキも、いえいえ、と頭を下げる。
「……久しぶりに実家に帰るんですけど、……母親が晩メシの心配ばっかりで……」
気恥ずかしさからかそう言う男に、イツキは、「いいですね、そういうの」と笑顔で応えた。
結局、一般人の男とはそれ以上の会話もなく、男はイツキが降りる駅の手前で電車を降りた。
緊張していた訳でもないが、イツキはふうと大きな息を吐く。
「………すごい、フツーの人だった。………なんか、空気が違った。清らかだった!
スポーツとかやってるのかな…。腕も太いし…胸板、厚くて。力、ありそう…。
あんな人と、したら……、…………大変かも…。
………いやいや……ないない」
空いた隣の座席を見ながら、イツキは思わず呟き、
うっかり下品な想像をして、くすくすと笑った。
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こういう普通の事が新鮮なんですよね
一般男子に抱かれる所を想像して、ときめいちゃった(〃A〃)
最近のいっちゃんはスキルが上がっているので
本気になったら…怖いですよ〜〜