2020年07月03日
バカンス・6
滞在する旅館はすばらしく良い所だった。
海沿いの松林の中に佇み、表向きは純和風の落ち着きある建物。
けれど内装はほどよく近代化され、イツキの泊まる部屋などは星の付くホテルに引けを取らないものだった。
イツキの事はきちんと話がされていたらしく、こんな少年の一人旅でも怪訝な顔をされる事は無かった。
小さな荷物を持ってもらい部屋に案内される。
すぐに女将と、総支配人という男が現れ、丁重な挨拶を受ける。
「黒川さまにはいつもお世話になっております。合流されるのは週末と伺っております。それまでの間、どうぞゆっくりとお過ごし下さい。
近隣には史跡や漁港、ハイキングコースなどもございます。ここにいる竹本は番頭見習いですが、案内なども出来ますので、どうぞご用命ください」
そう言って、イツキの荷物を持っていた男を紹介する。竹本と呼ばれた男は…20代前半。少しふっくらとした気の良さそうな青年で、イツキに頭をさげると。
女将らと一緒に、部屋を出て行った。
ばふんと、ベッドに横になる。
正直、洋風の部屋はありがたい。
家を出てからまだ4、5時間しか経っていなかったが、やはり慣れない移動はそれだけで疲れるものだった。
「………マサヤ、……お世話になっておりますって…、……何、お世話、してるんだろう……」
呟いて、うとうとする。夕食の時間まで、少し、休憩。
……以前訪れた熱海の旅館もそうだったが、黒川は、各地に点々と、こういった懇意にしている場所を持っている。
何を世話して、何に使っているのかは知らないけれど。……まあ、自分の様なコを隠したり、使ったりには、便利なのかも知れない。
実際、女将と黒川との連絡は密で、イツキの滞在中は常に動向を見張られているようなものだったが
それには、気付いて、気付かないふりをすることにした。
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