2020年07月07日
バカンス・8
「……この、ハマグリの入った焼き貝セットと、イカわたホイル焼き、まぐろカマと、エイヒレ……あと、ビールで!」
翌日のイツキは朝から元気で前向きだった。
軽く朝食を済ませると、番頭見習いの竹本が旅館おススメの散策コースを案内してくれると言う。
静かな松林を抜け、砂浜の広がる海岸線を歩き、大昔の地層が剥き出しになっている崖を見上げ、ナントカという武将を奉った祠を眺めた。
風光明媚な景色をながめ、すっかり心が清らかになったところで、昼休憩。
漁港の近くの磯焼屋。地元の人も利用するような気軽な店構え。海の匂いと醤油の焦げた匂いが、イツキの心を一瞬で鷲掴みにする。
「…いいお店ですね。俺、こんな感じ、大好きです」
「良かったです。…ああ、結構歩いて疲れませんでしたか?」
「疲れました。…こんなに歩いたの、久しぶりです」
イツキは笑って、店員が運んで来た瓶ビールを竹本に注ごうとする。けれど竹本は手で止め、「勤務中なので」などと言う。
イツキは……残念そうに顔をしかめ、自分のグラスにビールを注ぐと…もう一度竹本にビールを向ける。
「……一杯だけ…付き合って頂けませんか?……そうじゃないと俺、飲めなくって…」
そう言って、ニコリと笑って、竹本のグラスにビールを注ぐのだった。
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