2020年07月08日
バカンス・9
竹本は、実は酒好きの男だった。
勤務中でもあり一応、誘いは断ったものの…、女将から「大切なお客様」だと言われているイツキに、失礼があってもいけない。
とりあえず、注がれた一杯は飲み干す。
歩き疲れた体に、染み、思わずぷはぁと声が出て…、イツキが嬉しそうに微笑む。
イツキは別に、男を酔い潰してしまおうとは思っていない。
ただ、楽しい時間が過ごせれば良いと思し、…目の前の男をもてなすのはイツキの、癖なのだし。
「……竹本さん、22歳なんですか。俺とあんまり、変わらないじゃないですか」
「…え、岡部様、お幾つなんですか?」
「俺、19です。あ…、ビール飲んでるのは、内緒です」
今更そんな事を言って、イツキはくすくす笑う。
店員の目を気にする素振りを見せ、ビール瓶を竹本の手元に押しやり、主に飲んでいるのはこの男なのですよとアピールする。
そのくせ、空になった自分のグラスを竹本に差し出し、注がせる。
流れで、竹本は、自分のグラスにもビールを注ぐ。
いつの間に注文をしたのか、ほどなく二本目のビールがテーブルに置かれる。
「岡部様、この辺り…、貝の口開いたやつは大丈夫です。お醤油、垂らしますよ?」
「…あのー、やっぱり…、その岡部様って、止めて貰っていいですか?……下の名前、イツキって言います」
「じゃあ…、イツキさま…?……ああ、ホイル焼きも良い感じです、ぐつぐつ言ってます」
「イツキさま!……ふふふ。……竹本さん、ハマグリお皿に入れて下さい。ああ、お汁、零れちゃうー!」
焼き網の上の貝や魚を突きながら、思った以上に、楽しい時間を過ごす。
帰りの遅い二人を心配して、女将が竹本に電話を入れていたのだが、そんな野暮はものに気が付く余裕はなく
テーブルには、空いたビール瓶が、何本も並んだ。
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楽しそうないっちゃんを見るとほっとします
この子は幸せにしてあげたいですね
幸せ、見つけて欲しいですね。
…ちょっとやり過ぎちゃうトコはあるんですけど…笑