2020年07月10日

バカンス・10







その後、どうやって旅館に戻ったのかは…うろ覚えだった。
磯焼屋は、17時閉店だったので、そう遅くはならなかったはず。
並んで座って、男の肩にもたれ掛かっていた気がするのは、多分、タクシーに乗ったため。
途中はほぼほぼ山道。二軒目のお店も、ラブホテルも無くて、本当に良かったと思う。


当然、夕食を食べる余裕はなく、イツキは部屋で少しうとうとする。
目が覚め、頭がはっきりしたのは夜の10時過ぎ。……今日は、何もやらかしていない事を確認して……、風呂に入ることにする。



「……そんなに飲み過ぎてはいないけど…。……ふふ。……ハマグリ、美味しかった……」



旅館にはいくつか風呂があった。知らない人と一緒に入るこういった場所は、イツキは苦手だったのだが…、さすがにこの時間なら空いているだろうと、大浴場に向かう。
予想通り、利用者はイツキ一人で、のんびり温泉を楽しませてもらう。
他の時間帯でも、貸し切りで利用できる風呂もあるようだ。次はそれを利用しようかとも思う。


風呂から上がり、部屋から持ってきた浴衣を羽織り、お茶でも飲もうかとロビーに向かう。
ここもすでに明かりが落とされ、シンと静まり返っていた。
自動販売機でお茶を買い、何気にぐるりと見渡してみる。

もう少し早い時間ならカラオケや、軽食を出すラウンジも開いているらしい。
……土産物コーナーも、閉まっている。……けれど、奥のレジのあたりに、何か人影が見える。


そこでは竹本が一人、作業をしていた。

聞けば、竹本は旅館に帰り付いてから、女将にこっぴどく怒られたと言う。
それもそうだろう。近辺を案内し、磯焼屋でご相伴に預かるだけならまだしも…、…午後の仕事も忘れ、飲み過ぎ…、やはり先刻まで居眠りをしていたのだ。
せめて、今日の分の仕事は片付けないと…と、どうにか起き出し、働いていたのだ。




「…ごめんなさい、竹本さん。俺のせいですね……」
「…いやいや、お客様をご案内するのが私の仕事なのに、……調子に乗り過ぎました。……申し訳ない…」

竹本は丁度仕事が終わったようで、帳簿をぱたんと締める。
照れ臭そうに笑い、顔を上げると…、風呂上り、浴衣姿のイツキと目が合う。
…薄暗がりの中で見ると一層…、一緒に酒を飲んでいる時も思っていたが…、綺麗な子だと……、思う。
竹本には変な気を起こすだけの知識も、勇気も無かったが、……身体の奥がドンと熱くなる。



「……でも、俺、すっごく楽しかったです。ありがとうございました。」


そう言って罪作りなイツキはニコリと笑って、自分の部屋に戻って行った。





posted by 白黒ぼたん at 20:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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