2020年07月11日
バカンス・11
三日目、水曜日の朝。
目が覚めてイツキは思い出したようにスマホのチェックをする。
昨夜は…、黒川からの連絡は無かった。
…別に悪い事をしていた訳ではないが…、少し、安心する。
「……飲みに行ってたなんて知ったら、きっと、何か言う……」
イツキは独りごちながら、黒川が言いそうな言葉を想像して、ベッドの上で笑っていた。
朝食を食べて、ラウンジでコーヒーを飲み、今日は何をしようかと考える。
フロントのカウンターの中で忙しく働く竹本は、おそらく、今日は付き合ってはもらえまい。隣で女将が怖い顔をしている。
備え付けの観光案内などをぱらぱらとめくる。美術館や水族館もあるようだが、一人で行く気もしない。
それでも街中の、風情のある石畳の道を見ると、ちょっと散歩に行こうかなという気になってくる。
土産物屋だろうか店先に出ている「温泉まんじゅう」と「温泉ソフト」ののぼりが、イツキの目を惹いた。
「…昨日はスミマセンでした…。今日はちゃんと夕食までには帰って来まぁす」
イツキは女将にそう言って、呼んで貰ったタクシーに乗って、街中に向かう。
女将は小さく微笑み、「いってらっしゃいませ」と頭を下げていた。
街中は観光客向けに整備され、とても綺麗で賑わいがあった。
昨日の漁港の磯焼屋のように、ざっくばらんな所も良いが、こういった場所もああ、旅行に来たのだなと…しみじみ思わせる。
案内にあった「温泉ソフト」はすぐに見つかり、店先のベンチで一つ目を食べる。
この先、通りの両側には店がびっちり並んでいる。少し向こうに見える「おでん・地酒」の看板に心が躍る。
「……ヤバイ。……ここも楽しいかも知れない……」
イツキはタクシーの運転手に貰った「ぶらり街中観光マップ」を広げ、ソフトクリームのコーンをばりばりと口を押し込み、次はどの店に入ろうかと考えていた。
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