2020年07月15日
バカンス・14
「……お兄ちゃん、綺麗だもんね。……どっかのウリの子なんだ?」
「……違います」
「ふぅん。……でも、フツーの子じゃないよねぇ?」
男はニヤニヤと笑いながらイツキを眺める。
「……フツーの子じゃないって、……何で、そんな事、思うんですか?」
「はは、だって、俺とこうやって喋ってるだろ?。…フツーの子は、俺らみたいなのとは、お喋りもしねーんだよ?」
そう言って男は甚平の袷を少し引っ張って見せる。肩口にも、極彩色の刺青が見える。
ヤクザ、チンピラ、ゴロツキ。…ああ、確かにイツキはこういった人種には慣れている。
そのイツキの慣れた様子が…、男にも伝わってしまったのだろう。
イツキはふうと息を付いて、残りの日本酒を飲み干した。
「まあ、そんなとこです。じゃあ、俺、帰るので…」
イツキは律儀に、ぺこりと頭を下げて、……席を立ち手早く会計を済ませ、店の外に出る。
「…え?…ちょっとちょっと、お兄ちゃん……」と男は慌て、自分も金を払い、イツキの後を追う。
「なー、もう少し話そうぜ? マジで観光?一人で?…どっかに客がいるとか?」
「………」
「名前は?歳はなんぼ?…一本、幾ら?」
本気のナンパかキャッチのように、男はイツキの真横について、あれこれ話しかけて来る。
イツキはとにかく無視を決め込み、早く、タクシー乗り場に行こうと小走りで来た道を戻る。
「……あっ、兄ちゃん!……危なっ」
「…え?」
ふいに男が声を上げる。イツキは反射的に足を止め、何事かと顔を向ける。
同時に、男はドンとイツキに身体をぶつけ、よろけさせる。
よろめいた先は、細い路地の入口で、勿論をそこを狙っていたわけで、イツキと男は絡まるように暗がりに吸い込まれて行く。
「……な。アブナイだろ?」
バランスを崩したイツキを男は抱き留めながら、そう言って笑った。
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いっちゃんの魅力でトラブルを引き寄せてしまいますね
どこでもトラブルに見舞われます。
ま、そーゆー子ですから…