2020年07月21日
バカンス・19
『……何だ?』
「…何って。……マサヤが掛けて来たんじゃん…」
『…ああ。………いや、違う…ブルゴーニュの方で……、……金曜日、そっちに着くのが遅くなる。メシは先に食っておけ』
明らかに奇妙な会話。まるでどこかで、誰かとワインを選んでいる様子。
「………マサヤ?…今、…どこにいるの?」
『…ん、まあな。………お前も、遊び歩いているんじゃないぞ。番頭をたぶらかすなよ』
一方的にそれだけ言って、電話は切れる。
イツキはケータイを手にしたまま、どういう事かと、少し考える。
適当にはぐらかされたが、おそらく黒川は今、誰かと一緒に食事でもしているのだろう。
微かに、微かに…、後ろで女性の声が聞こえていたので、そう言った店なのかも知れない。
「遊び歩くな」とも「男をたぶらかすな」とも、良く言われる言葉だが、「番頭」と付くと話は違って
昨日、番頭見習いの竹本と楽しく酒を飲んだ事を、もう、黒川が知っているという事なのだろう。
「……何、それ。……どっかで話、聞いてる?誰か、見張ってる…?」
実際は、黒川と馴染みの女将が、イツキの様子を報告していたのだが……
それはともかく。
ある思いがイツキの頭をよぎる。
黒川は、自分が遊ぶためにイツキを一人で旅行に出したのだ。
その間は、自由に遊べと気前の良さを見せつつ、見張りを付け……
……そして遊ばせておいて、その分、週末は「仕事」をしろ……と。
「………うそ。……そーゆーコト…?」
イツキは力なく呟き、口を真一文字に結び、替わりに鼻で大きく溜息をついた。
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