2020年07月31日

バカンス・25







さて、その夜。




ふいにイツキは目を覚ます。身体は疲れ切っているはずなのに、いつもとは違う種類の疲れで、なんとなく落ち着かない。
あまりに眩しすぎた昼間の光が、まだどこかで、チカチカやっているようだ。

隣りのベッドを覗くと、梶原はいない。
…梶原も寝付けず、起き出したのか。24時間開いている露天風呂があると言っていたので、そこにでも行ったのか。


イツキは浴衣に丹前を羽織り、部屋の外に出て行った。




真夜中の旅館の廊下は、当然暗く静かで、ぼんやりとした常夜灯が赤いビロードの絨毯を照らす。
幽霊でも出そうな風情だが、案外イツキは、そういったものには無頓着だった。
階段を一つ下りて露天風呂まで来てみたが、人の気配も物音もしない。
壁には「点検作業につきお休み」の貼り紙が出ていた。


ロビーまで下り、ソファに座る。
竹本でもいないかと辺りを見回すが、さすがにこんな時間では誰もいない。売店の明かりもすっかり落とされていた。


ケータイを開くも、黒川からのメッセージはない。
少しほっとするのだが…、同時に、少し……悔しい気もする。
放置も束縛も、程度がおかしい。丁度良い落とし所は、未だ見つからない。











しばらくしてからイツキが部屋に戻ると、そこには梶原の姿があった。

「……あ、お、おかえり、イツキ。どこ行ってた?」
「……んー。寝付けなくて、ちょっと…。……梶原もいなかったじゃん…」
「…あー…、……俺、風呂。露天風呂、行ってた」
「…………ふぅん?」




イツキと梶原は顔を見合わせ、ははは、と、なんとなく笑う。
お互い、それ以上は詮索しない事にした。





posted by 白黒ぼたん at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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