2020年08月03日

バカンス・27






一応アラームを掛けておいて正解だった。
連日の疲れが出たのか少し転寝のつもりが、すっかり寝入ってしまった。

今日のスペシャルは確か伊勢海老の姿焼きだったはず、と
イツキは浴衣姿から、きちんとした格好に着替え、離れのレストランへと急いだ。

レストランの席はあらかじめ決まっている。
イツキが案内された席に向かうと、そこにはすでに……


黒川が座っていた。





「………えっ、………来るの、夜…遅くじゃなかった…?」



およそ一週間ぶりに会う黒川は、まるで今朝がた別れたばかりというような、普通の顔。
イツキばかりが驚き、髪に手をやって、自分がどんな格好をしてきたのかを確認する。


「用事が早く終わってな。なんだ?…何か不都合でもあるのか」
「…いや、……ないけど。……びっくりした」


きょろきょろと辺りを見回しながら、イツキは注意深く席に着く。
テーブルにはすでに酒と器が用意されている。黒川は先に始めていたらしい。


「……マサヤ、だけ?」
「うん?」
「……相手の人って…、いるの?……仕事って…、……今日、明日?」





不安気な顔でイツキは尋ねる。……その事は重々解っていたはずだが
予定が変わった事で、心の準備が間に合わない。
そんなイツキの様子が面白いのか、黒川はニヤリと笑い…、返事の前にイツキに酒のボトルを差し出す。
イツキはグラスを取り、注いでもらう。手が、小さく震える。






「仕事の話な、……あれは、嘘だ」

薄く笑いながら、黒川はそう言った。



posted by 白黒ぼたん at 21:07| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
えっ嘘??
なんで?黒川さん??
Posted by はるりん at 2020年08月04日 17:50
からかっただけ、とか。笑
Posted by ぼたん at 2020年08月05日 22:41
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