2020年08月05日
バカンス・28
「………は?………うそ?」
「そう」
「……無いの?……仕事」
「あった方が良かったか?」
事態を飲み込めないイツキ。
勿論『仕事』なんて無い方が良いに決まっているが、急に、予定が変わっても気持ちは簡単に切り替わらない。
豆鉄砲を食らった鳩のように目を丸くするイツキの前に、給仕が、料理をいくつか運んで来る。
先に黒川が注文していたようだ。酒のツマミに丁度良い小皿が並ぶ。
向こうのオープンキッチンで、スペシャルメニューの伊勢海老が焼き上がったと、ベルが鳴る。
黒川は一瞬そちらを見て、それからイツキを見て、ふふんと鼻で笑って、自分のグラスに酒を注いだ。
「たまにはのんびり過ごすのも…良かっただろう?
変な知り合いがいる東京よりは、危険も少ないからな。
ただ、羽目を外し過ぎても困る。
……嫌な予定の一つでもあれば、自重するだろ?」
本当に、それだけの理由だったのだ。
実際、イツキは「仕事」を気にし、何もかも忘れぱっと遊ぶ……、まあ、そんな事はしないにせよ…、……ある種の重しとなった事は確かだった。
それでも、それをすぐに理解するのは難しい。
「………意味、わかんない!」
イツキは吐き捨て、呆れるより怒り、手元のグラスの酒を一気飲みして、目の前の料理をガツガツ食べ始める。
それを見て黒川は珍しく、声を上げて、笑った。
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