2020年08月21日
嫌がらせ
旅館には大浴場の他に、時間で貸し切りに出来る家族風呂があって
夜はそこを利用した。
今更、風呂で肌を見せるのはハズカシイだの何の、言い出すのもおかしな話だが
イツキは常に身体にタオルを巻き付け、緊張しているようだった。
「馬鹿か、お前は。お前のハダカなぞ、見飽きているぞ」
「いや、でも…なんか、お風呂って違うじゃん……」
イツキは隠れるように手早く身体を洗い、外に向かう。
樹木が茂る中庭。大きな岩に囲まれた露天風呂。
こぽこぽと溢れる湯と立ち込める湯気が風情をそそるも
生憎、風呂はそう広いものでも無かった。
やがて黒川もこちらにやって来る。
何の気も使う様子もなく、タオルすら引っ掛けず、すぐにイツキの隣の湯に浸かる。
2人で風呂に入るのは、イツキが
自分が、身体を見られて恥ずかしいから嫌なのではなく
裸の黒川が目前にいることが…気恥ずかしくて嫌なのだ。
あの手も、胸も、腰も、よく知っている。
振り落とされないようにしがみ付いて、声をあげたのは、ほんの数時間前のことなのだ。
黒川は
イツキがそんな事を思っているのを、実は知っていた。
自分と目を合わせないようにするイツキを、鼻で笑って
半ば嫌がらせのように
腕をイツキの身体に巻き付け、ぐっと抱き寄せるのだった。
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