2020年08月24日
爪痕
一通りコトが終わって、黒川は起き上がり
ベッドの縁に座り、タバコに手を伸ばす。
イツキは寝転んだまま、黒川の背中を見上げる。
バカンスも、今日が最後。明日の朝には、現実に戻らなければいけない。
「……俺、ずっと…こんな風でもいいな……」
「何がだよ」
「……知らない場所で、マサヤが一緒で。…お風呂に入って、…ご飯食べて…」
「どれだけ暇人だよ。……まあ、お前はいいよな、それでも…」
ベッドの横には擦りガラスの丸い照明があって
その淡い光が黒川の背中を浮かび上がらせる。
右肩に1つ、赤い線があるのは、さっきイツキが引っ掻いてしまった爪痕だろう。
あまりにも
黒川が大きく抉ぐるものだから
イツキはこのまま、身体が裏返ってしまうのではないかと思った。
痛みと違和感は快楽に呑まれて、熱と体液が垂れ流される。
どうにもならなくて振り回した手が、黒川の肩に当たる。
そんな事で黒川を止められるはずもないのに。
「……誰も知らないとこで、マサヤといるのって……、好き。
なんか、世界に、2人だけって気がしない?
……その方がマサヤも優しい気がするし、俺も、…気が楽。
……他に何も、考えなくても…いいんだもん……」
まだ身体に熱が残っているのか、うかされたようにイツキが呟く。
黒川は煙草を吹かし、イツキの戯言にふんと鼻を鳴らし、もう一度紫煙を吐き出す。
「そうだな」
そう言って黒川は煙草を灰皿に押し付けた。
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