2020年08月26日
不機嫌な黒川
黒川とイツキにはシガラミが多過ぎる。
出会いからして最悪だった上に、重ねた年月もまあ、悪い。
その分、この先の未来が明るいものかと言えば、そうとも言えない。
何もかも不安定で不透明。
自身のココロと身体も、思うようには動かせない。
だからこそ
ほんの旅先でも。日常から切り離された場所で、二人きりで過ごせる時間は
良いものだったのかも知れない。
どれだけ甘く優しい素振りを見せたとしても、それを知るのは、二人だけなのだ。
『……こうやって、マサヤと2人きりで過ごすの、…いいな…』
そう呟いたイツキを、もっと抱きしめてやれば良かったと
黒川は思った。
決して離れないように全てを繋ぎ止めていれば良かったと。
いなくなってからでは、遅いのだ。
イツキが傍にいないというただそれだけの事が
黒川の胸の奥に、深く暗い影を落とすのだった。
「………マサヤ、そろそろ着くよ。品川駅」
旅先からの帰りの列車で、寝入っていた黒川を起こそうと、イツキが声を掛ける。
黒川は2、3瞬きをして、夢とも解らないぼんやりとした思いから目を醒ます。
目の前のイツキを確認し、驚いたように目を見開き、それから…深いため息を吐く。
あやうく手を伸ばし抱きしめそうになるのを、理性でどうにか、ねじ伏せる。
「………もっと早く起こせ。…馬鹿が…」
寝起きの黒川の機嫌が悪い理由は、イツキには解らなかった。
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