2020年08月28日

バゲットと目玉焼き








バカンスが終わってもイツキと黒川はそう変わらず。

あの二人きりの甘ったるい時間が、何か関係を進展させる要因になるかとも思ったが……、気のせいだった。
黒川は夜の一時を除けばほぼ不愛想で、イツキを雑に扱い、コーヒーが不味いだの文句を言い、
イツキは部屋中の洗濯物を掻き集めたり、簡単な掃除をしながら、それでもまあ気軽な生活を楽しんでいた。



遅い朝食はバゲットと目玉焼き。
今日の黄身は、破れなかった。





「俺、今日は研修の日。…夕方には戻るけど、マサヤ、いない時間かな?」
「…そうかもな。俺のことは構うな。用事があれば連絡する」
「…はぁい」



ハーバルの販売員の仕事は特に反対される事もなく、話が進んでいた。
某百貨店の常設ブース。
営業時間の全てにいなければいけない訳ではないので、ミカと二人で時間を区切りながら、どうにか回して行く段取りになっていた。
多少、面倒臭い事務仕事も増えるため、現地での研修も始まっていた。



「…後で買い物に行くけど何か必要なものってある? …俺、やっぱり靴が合わなくて。ミカちゃんなんて、よく一日ヒールで過ごせるなって…」
「そんなものは慣れだろう。ああ、磨き用のクリームが無かったな、買っておけ」
「キウイの黒の? はぁい」



先に食べ終わったイツキは自分の皿を下げ、仕事用に新しく買ったジャケットを羽織り、行って来ますと部屋を出る。
黒川は顔も上げずに、ああ、とだけ言い、後は新聞をガサガサと広げていた。




何の変化もなく、ただ普通に日々を過ごすことが
この二人には稀で、貴重な、穏やかな時間だった。





posted by 白黒ぼたん at 22:00| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
いっちゃん、いよいよハーバルの仕事を始めるのですね
このなんにも刺激のない日常が
2人にとっては幸せなんですよね〜
いっちゃん働く主婦になります!
Posted by はるりん at 2020年08月29日 13:46
主婦いっちゃん!
仕事帰りにデパ地下で惣菜とか買って帰っちゃう!

黒川も案外この生活
楽しんでそうです。
Posted by ぼたん at 2020年08月31日 23:44
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