2020年09月04日
寿司割烹なか井・3
『…フェスタの後?……ああ、あれは…、……イツキくんを送っただけだよ。家に』
『黒川さんの所ですか?』
『あ?…黒川さんも知ってるんだ?……ふーん』
『…イツキくんのカレシですよね。……俺、別に、アレなんですけど…。…気にしてないんですけど。……まあ、どうなのかなって…、その…、あの…』
思いつめた様子の林田。自分でも自分の気持が解っていないのかも知れない。
もやもやと一緒に手元の酒を煽る様子を、松田は可笑しそうに横目で見遣る。
おそらく、イツキの色香に当てられた一人なのだろう。被害者というべきか。
『…イツキくんはねー、複雑らしいからねー。あんまり関わらない方が良いと思うよ?
君は君で、普通に彼女でも作って遊びなさい』
『……カノジョは…、……いたけど、別れちゃって。……なんか俺が、いつも、なんか上の空だって…、……ハハハ』
林田は笑って、また酒を飲んで、散々愚痴を零し、その後はパタリと倒れてしまった。
「…イツキくんの事が忘れられないみたいだよ、可哀想に」
「俺、……林田さんとは、何も無いですよ。……ちょっと、……しましたけど…」
「ちょっと、ね。あはは。……林田にしてみれば、大事件だったろうなぁ…」
あまりに松田が茶化し、笑うものだから…、……イツキは少し、不機嫌になる。
確かに、軽い気持ちで関係を持つことは褒められたものではないが……、その善悪を今更自分に説かれても仕方が無い。
そんな事は松田にも解っているだろうに。
「……俺、…するのって…、……あんまり…。……大したコトじゃ無いんですよね…。
そうやって…、ずっと、……言われてきたので…。
林田さんが困ってるのは、申し訳ないとは思うけど…。
俺のセックスなんて、…挨拶の延長でしょ?……松田さんとだって、したでしょ?」
自棄気味にそう呟くイツキは、言葉とは裏腹に…どこか寂し気で、……泣き出しそうな顔で……松田は胸の何処かに痛みを覚える。
そう感じさせるトコロが、イツキの、危険な所なのだとも知っている。
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