2020年10月15日

イツキとダニー・1







イツキはハーバルの仕事でミスをしたようだった。




「あなたがちゃんと言ってくれないからじゃない!」
「………え。……でも……何でもいいからって……」
「でもじゃないでしょ! 大変だったのよ!どう責任を取ってくれるのよ!」



年配の太った夫人は売り場の前でイツキにがなり立てる。
生憎とまだミカのいない時間。イツキはどうしたものかと…、……困る。

太った夫人はつい数時間前に売り場を訪れ、とにかく急いで、
何でも良いから詰めて頂戴。手土産に持って行くの、と
『ハーバル・秋の香りセレクション・バーム・入浴剤セット』を購入したのだが
その中のどれかの香りが、駄目だったらしい。訪問先で袋を開けた途端くしゃみが止まらなくなり
酷い目に遭ったと文句を言いに戻って来たのだ。



「…くしゃみも鼻水も止まらなくて…恥ずかしい…!…何か、変なもの、入ってるんじゃないの!?」
「入ってません!……だいたい、何でも良いからって…お客さんが言ったんですよ………」
「あたくしのせいだって言うの?…商品の説明をするのも、あなたの仕事でしょう!」
「……でも……」



激昂する婦人に、狼狽するイツキ。
接客の、一通りの研修はしていたけれど…、実際、こういった人を前にすると、どう対応して良いのか解らない。

『そんなの知るかよ。話も途中で買い物したのはアンタだろ?』

と、喉まで出かかったのを……とりあえず、呑み込む。




「変な店だと思ったのよ! 新顔でちょっと気になって寄ったけど…、所詮、こんなコが接客してるんでしょ?得体も知れない…! どう責任、取ってくれるのよ!!責任者を呼んで頂戴!!」



「お客様。申し訳ございません。よろしければ私がお話を伺います」







困惑と怒りを通り越し泣きそうになっていたイツキを救ったのは

騒ぎを聞いて駆け付けた、茗荷谷フロアマネージャーだった。





posted by 白黒ぼたん at 00:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/188027160
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。

この記事へのトラックバック