2020年10月15日

イツキとダニー・2







長身やせ型七三分け、三十代眼鏡男子の茗荷谷は真面目だけが取り柄の男で
制服のえんじ色のジャケットを羽織り、きちんと両手で名刺を差し出し、一礼をすると
……まあ偉いのが出て来たな、という感じで……とりあえず場の空気が変わる。

太った夫人はイツキに捲し立てた同じ話を茗荷谷にもする。
茗荷谷は神妙な面持ちで、ふむふむと話を聞き、ああ…とか、それはそれは…など相槌を入れる。
そして話が終わると「大変ご迷惑をおかけしました」と深く頭を下げた。




「……今は、お身体の加減はいかがですか?症状は治まりましたか?」
「………まあ、今は…平気だけど……」
「ああ、良かったです。こちらの商品は天然素材を使用しているため、敏感な方はアレルギー症状が出ることもあるようです。くしゃみも…肌の痒みも…、大変ですからねぇ。
事前の説明が足りなかったのはこちらのミスです。もちろん、返金対応とさせて頂きます」
「……あら。……そうして貰えるなら…、……助かるけど…」



傍に立つイツキを他所に話は進む。
先ほどまでの権幕が嘘のように夫人の声色は静かになり、驚いたことに笑顔まで浮かべている。
返金の手続きを済ませ、茗荷谷は夫人の帰りを、フロアの端までお見送りする。


「またのご来店をお待ちしております。次回は是非、ご満足いただけるお品をご用意させて頂きます」
「そうね。また来るわ。……あなたもちゃんとしなさいよ!」

「は…、はいっ……あ、ありがとうございました……」



イツキは…、…よく解らないまま深々と頭を下げる。とにかく、茗荷谷が事を収めてくれたようだ。
恐る恐る…茗荷谷の様子を伺うと、茗荷谷も同じように頭を下げていて、やがて、身体を起こし

一仕事終えたという風に、ふうと息をついた。









posted by 白黒ぼたん at 23:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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