2020年12月07日
茗荷谷の5秒間
茗荷谷がイツキを見掛けたのは一瞬で、
ミツオと並んで百貨店を出る、後ろ姿だった。
その後、本当に用事があって、ハーバルの店舗へ立ち寄る。
店ではミカが接客を終えたところだろうか、ありがとうございます、と頭を下げているところだった。
「お疲れ様です。ハーバルさん、これ、来週からの歳末キャンペーンの注意事項です」
「ダ………、茗荷谷マネ! お疲れ様です! ありがとうございます!」
いつも元気なミカ。
自分の事を「ダニー」と呼ばれていると知らない茗荷谷は、いつもミカが少し言葉を詰まらせているのを…、…元気な証拠だと思っていた。
「…忙しそうですね。…一人の時間帯ですか?」
「そうなんです。イツキくんとは夕方、バトンタッチで」
「……そうですか」
『…カレ、身の回りのバタバタは落ち着きましたか?
先日 怪しげな男と車に乗っている所を見掛けましたよ?
今は、若い男と連れ立って歩いていましたよ?
問題はありませんか?大丈夫ですか?……彼は、……何者なのですか?』
と、ストレートに尋ねるにしては……まだ面識も浅い気がして……
茗荷谷は5秒ほど押し黙った後、「…では、失礼します…」とミカの前から立ち去った。
ミカはその日、仕事が終わると友達のユウと遊びに出掛けた。
行った先の飲み屋で、茗荷谷の物静かな口調を真似しながら、状況を説明し
「ダニー、イツキくんに、気があるんじゃなーい?」
などと、言うのだった。
この記事へのコメント
コメントを書く
この記事へのトラックバックURL
http://blog.sakura.ne.jp/tb/188196793
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック
http://blog.sakura.ne.jp/tb/188196793
※ブログオーナーが承認したトラックバックのみ表示されます。
※言及リンクのないトラックバックは受信されません。
この記事へのトラックバック