2020年12月10日
断片・3
「用事が済んだらさっさと帰れ。お前に付き合っている程ヒマじゃない」
事務所で。
黒川はデスクから顔も上げずに、そう言う。
確かに最近は仕事が忙しいらしい。
通常の年の瀬の煩雑さに加え、松田との何か、事業も進めているようだ。
イツキは一ノ宮に入れて貰ったお茶を飲み終え、つまらなそうにふん、と息をする。
「じゃあ。帰る。……佐野っちとでも、ご飯、食べて来ようかな…」
「…好きにしろ。…あいつも暇じゃないだろうがな…」
「佐野っちは、俺が頼めば、いつでも付き合ってくれるよ」
「…そりゃあ、その後、ヤレると思っているからだろう。……ご自由に」
心にも無い事をペラペラと喋る内に、イツキは、事務所から出ていってしまった。
バタンとドアの閉まる音で、黒川はやっと顔を上げ
おそらく苦虫を潰したような顔をしている一ノ宮に、気付かないフリをして、仕事に戻った。
あえて嫌な事を言っている自覚はあった。
馴れ合い過ぎると離れられなくなる不安もあった。
今更、距離感が解らない、などと言うつもりもないが、
思っている事より先に口が出てしまうのは、まあまあ厄介だなとは…思っていた。
「……イツキ。今、どこだ?……佐野とは……行かなかったのか。
………角の焼鳥屋でいつもの詰め合わせを買っておけ。……ああ、あと少しで帰る」
しばらくして、黒川が小さな声でそう電話をしているのを聞いて
一ノ宮は少し、驚いた。
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