2020年12月14日
断片・5
関の言う事を真に受けた訳ではないが
一度、思いついてしまえば、その思いは常に頭の片隅にあって
タチの悪い熱病のように、ふいに、ぶり返し……真面目な茗荷谷を困らせた。
「……大きいワゴンが3台とポップ台を5本。……在庫は3階のバックヤードに。
………テナントさん用の特設レジは中央と一緒で……、抽選券、リトルガールとハーバルさんは…………」
「…………マネージャー?」
「……ああ、いえ。抽選券は緑色のみです。間違えないように………」
来週から始まる歳末セールの準備で、まあまあ忙しい日々。
良く解らない妄想に捕らわれている場合ではないと、茗荷谷は小さく頭を振った。
夕方。
クルー詰め所でイツキを見掛ける。
普通であればこれから夜のピークを迎える時間。この時間に退社する者は少なく、否応なく目につく。
イツキは制服のジャケットを脱ぎ、ふうと溜息を付く。
それからキレイ目のトレンチコートを羽織り、また、ふうと、肩から息を付く。
鼻に手をやり、すする。嗚咽を飲み込むように、口元に手をやる。
顔を上げ、唇を噛む。ロッカーを離れ、詰め所を出て行く。
擦れ違う茗荷谷に軽く頭を下げるイツキは
確かに、泣いている様だった。
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