2020年12月25日
特別な日・8
「俺、今日、誕生日だったんだ」
イツキの言葉に黒川は驚いたように息を止め
それに気付かれないように、視線だけをイツキを向ける。
イツキは、もう黒川の返事など期待もしてないと言った様子。
諦めにも似た表情。肩でつく溜息。口元の日本酒は、もう味などしない。
「……誕生日。二十歳の。……ああ、もう12時過ぎたから…終わっちゃったけど。
……まあ別に、一つ歳、取っただけで……何も変わんないけどさ。……お酒だって、もう、飲んでるし。
……だから、別に、……何でもないんだ……」
「………そうか」
「うん」
相変わらず、気遣いの欠片もない黒川の言葉。『それがどうした』と憎まれ口を叩かないだけ、まだましと言ったところだろうか。
それでも、それ以降は言葉が続かず、二人とも押し黙り……
「…………じゃ、俺、寝るね。………マサヤ、バイバイ」
イツキはそう言って立ち上がり、ふらふらと歩き、自分の「巣箱」へ入って行った。
黒川は残りの酒を飲みながら、ふんと鼻息を鳴らす。
この商売、誕生日だろうが、それこそ親が死のうがどうしようが……関係はない。そんな事でいちいち感傷的になっていては、成り立たない。
ガキでもあるまいし、ケーキにロウソクを立てて、歌でも歌って欲しかったのか?……くだらない。
「………馬鹿な奴…」
そう呟いてから、黒川は、イツキがそんなガキのような誕生日を過ごしたのはいつが最後だったのかと…
ふと、思った。
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