2020年12月26日
特別な日・9
黒川は、少なくとも去年も、その前も……イツキの誕生日を気にした覚えはない。
自分と一緒に過ごすようになって以来、それを意識した記憶はない。
「………ハタチ、ね……」
ただ一つ歳を重ねるだけの日が、そう大したイベントだとも思えないが
節目の年であれば、多少、重みは違って来る。
「おやすみ」ではなく「バイバイ」と言って
自分の元を離れて行ったイツキ。
ただ、立ち上がるタイミングで、何の気もなく出た言葉にしても
嫌なものだなと、黒川は、小さく笑った。
黒川は立ち上がり、イツキが眠る巣箱へと向かう。
扉を閉めると中は真っ暗。どこかに小さなランプがあったはずだが、今は見つからない。
黒川は、足の先でイツキの場所を探り、踏みつけないように、その横に潜り込む。
シングルのマットレスを敷くのもギリギリの場所。大人二人が寝転ぶには狭すぎる。
「……………イツキ…」
暗闇で、抱き締める。
何も見えなくても腕の中に収めてしまえば、肩も、顔も、どこにあるのか解る。
軽く唇を合わせると、静かな呼気とともに酒の匂いがする。
互いの顔も見えず、酔って寝入ってしまったような
こんな場面でもなければ到底、本当の、思っている事は口には出来ない。
「…………まあ、悪かったな。………お前を、乱暴に扱うのは…、……俺の癖だ。
お前は、何があったとしても俺の傍にいるものだと……思っているからな。
たまに、行き過ぎるとも、思うよ。………すまんな。
…これでも、優しくしてやろうとは…思っているんだぜ?
昔に比べれば、上出来だろう?」
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