2021年01月07日
男子会・1
イツキは少々緊張していた。
上司の、……いや、直接の上司ではないが、仕事場のフロアの責任者なのだから上司と言えるか……、マネージャーの茗荷谷に呼び出されていた。
百貨店の近くの、茗荷谷の行きつけの居酒屋。
ガヤガヤと賑やかな店内の奥の席で、二人きりで向かい合う。
「ああ、別に。そんなに構えなくても…。はは…。ほら、あの売り場って男子が少ないでしょ。何か悩みとかストレスとか…、話したい事とか…、ああ、ビールで良かったかな?……ん?……未成年だったっけ…」
何故か、呼び出した茗荷谷も緊張しているようだ。
メニューをパラパラ捲り、眼鏡のフレームを触り、イツキの顔を見ることもない。
「……えっと。ビールで。……俺、先月、ハタチになったんで」
「先月!……じゃあ、最初の飲み会は、未成年だったんだ?……駄目じゃないか!」
少し強めの語気。まあ、責任者としては当然の対応だろう。茗荷谷はキッと睨みイツキを戒めると
イツキはふふふと柔らかく笑って、「……でも、もう、平気です」と肩を窄めてみせた。
「………困ってることは…あります。女子、強すぎます。
詰所の自動販売機の前で煙草吸ってるお姉さま方がいて、近寄れなくて、困っています」
時間が経つと、イツキも茗荷谷も緊張が解け、酒を飲みながら何の事もない話をし始める。
もともと、イツキの、茗荷谷に対する印象は悪くない。
気難しそうな面はあるが、真面目に、いつも仕事場の事をきちんと考えてくれていると感じていた。
今日のこの誘いも、その延長線上だと思っていた。
「ああ、それは「ジュエリー・タナカ」の社員ですね。何度か注意しているのですけど…。……まあ、ちょっと、…怖いですよね……」
苦笑いを浮かべながら茗荷谷がそう言う。イツキは「………でしょ?」と言う風に、笑う。
もっとも、茗荷谷は、こんな話をしたくてイツキを呼び出した訳ではない。
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