2021年01月08日

男子会・2






やがて、当たり障りの無い普通の会話は尽き
酒のグラスも空になり、丁度良いお開きの時間。


「……あー、…岡部くん、……最後に甘いもの、食べるかな?」
「いえ。もうお腹一杯です。………俺、そろそろ……」
「ああ、うん。そうだよね。……今日は、付き合ってくれてありがとう」
「こちらこそ、ありがとうございます。マネージャーと色んな話が出来て、俺、楽しかったです」


すでに腰を上げているイツキを引き留めるだけのスキルを茗荷谷が持ち合わせている筈もなく。
辛うじて、テーブルの上の伝票を持ち「……今日は私が払うよ」と会計に向かう。

イツキは、茗荷谷は何と親切な男なのだろうと、感心する。
そして、腕に光る新しい時計を覗きこみ、部屋に帰るのは何時ぐらいかなと計算する。



「……じゃあ、お疲れ様でした。岡部くん」
「はい。お疲れさまです……」



店の外で茗荷谷とイツキは言葉を交わし、頭を下げるも……、何か、妙な間が空いてしまう。

この時になって初めてイツキは、茗荷谷が何か言いたい事があるのではないかと、気付く。

茗荷谷は眼鏡を触り、少し視線を外して、またイツキに向き合い、もぞもぞと俯く。



「……いや。実は…、暮れに…、キミが泣きながら退店するのを見掛けてね。……それで、その、……何かあったのかなと…、…気になっていたんだが……。
仕事関係とは違うのかな。……まあ、問題が無ければ良いのだけど。……ちょっと気になっていたんだよ」

「………え?…………ああ!」



それは数週間前の、イツキの誕生日の日の事。
黒川に『仕事』を命じられ涙と鼻水を啜るイツキを、茗荷谷は、ずっと気に掛けていたのだ。








posted by 白黒ぼたん at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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