2021年01月25日

黒一ノ宮・2








別に一ノ宮は、イツキを嫌いな訳ではない。
あんな境遇に置かれていながら、素直で健気。
時には仇となる優しい心根も、大したものだなぁとある意味感心していた。

けれど…実のところ
一ノ宮には他者を、好きか嫌いかで判断する感覚が…あまり無い。
自分と黒川にとって、有益か、そうでないか。
それだけの、シンプルなものだった。






急にイツキに「仕事」が入ったらしい。
真夜中を過ぎて、黒川と、まだ何かが残っているのか…ぼんやりとした様子のイツキが帰って来た。




一ノ宮は熱いお茶を淹れ、イツキと黒川に出す。
イツキは一ノ宮を見上げ、にこりと笑い、「……ありがとうございます」と言う。
黒川は不機嫌そうに煙草を吹かす。

「……ふん。はりきり過ぎだ。馬鹿が。…オプションは別料金を取らんと、割に合わないな…」

客と、イツキに向けてか、そんな悪態ばかりを付く。
最近は、自分のオモチャを他人に貸すのが、気に入らないらしい。


「……大丈夫ですか、イツキくん。……頬に少し、青なじみが出来ていますね、冷やした方がいい。
吐き気は無いですか?……ああ、シャツのボタンは…、同じものがありますよ。後で付けてあげましょう」

一ノ宮はそうイツキに声を掛ける。優しいその気遣いは、本心からのものだった。




余程疲れていたのか、やがて、イツキはソファでうとうとと、眠ってしまう。
一ノ宮はイツキの肩に毛布を掛け、そして、黒川に少々キツイ視線を向ける。




「『仕事』も結構ですが、もう少しイツキくんを大切にしないと駄目ですよ、雅也」
「………しているだろう。十分だ。お釣りが出る」
「愛想尽かされて、離れてしまって……困るのは、あなたですよ?」


そんな小言を言うのは半分は、イツキと黒川の事を想っての親心のようなものだったが




あとの半分は
黒川の、ふてくされた表情を見たいためだった。






posted by 白黒ぼたん at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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