2021年01月26日
黒一ノ宮・3
都内某所。
隠れ家的な、静かなレストラン。
扉を開け、女性をエスコートする一ノ宮。
女性はコートをクロークに預け、店内の雰囲気に息を飲む。
「…すみません、こんな場所で。……もっと気軽な店にすれば良かったかな…」
「あ、いえ。……ふふ、なんだか緊張しちゃいますね…」
一ノ宮と待ち合わせ、この店にやって来たユウは
ハーバルと同じフロアにあるショップの店員。ミカの友達。
以前、ちょっとした機会に一ノ宮を見掛け、どうにか知り合いになれないかと
駄目で元々。ミカからイツキを伝い、連絡先を書いたメモを渡していたのだ。
返信を貰えただけでも上出来だったが
食事に誘われた時には、密かに、ガッツポーズをし天を仰いだ。
ここ一番の勝負服を着て、挑んだのが正解だったと
慣れた様子でワインリストを眺める一ノ宮を見て、しみじみ思う。
「…東京駅の時は驚かれたでしょう?……バタバタしてしまって…。
ほら、イツキくんは、結構ぼんやりしている子でしょう?
うっかり誘拐されるのではないかと、私も黒川も慌てましてね…。
まあ、ただの、迷子だったのですが…」
軽く笑いながら一ノ宮がそう言うので、ユウも、軽く笑いながら話を聞く。
実の所、それが真実なのだけど、まるで冗談のように
甘くて深い赤ワインと一緒にするりと流れてしまう。
「…黒川さんって方は、イツキくんのお父様なんですか?」
「お父上の、……友人でした。イツキくんのお父さんは亡くなりましてね………」
そう言って一ノ宮が静かに目を伏せてしまえば、
ユウはもう、この話を続ける事が出来なくなる。
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