2021年01月30日
黒一ノ宮・最終話
一ノ宮は黒川の元で仕事をしているが、はっきりとした上下関係がある訳では無い。
人前では「社長」と呼び、指示には必ず従うとしているのは……そうする方が楽だからだった。
自分が前へ、前へと出るタイプではない。
昔は、違ったのだけど。
若い頃は血気盛んで、喧嘩っ早く、揉め事にはこちらから突っ込んでいくような男だった。
黒川とは十代の頃からの付き合いだが、その当時は黒川の方が、沈着冷静だったかも知れない。
ある時一ノ宮は功を焦り、自ら鉄砲玉となり、大きな騒ぎを起こした。
……黒川の加勢がもう少し遅ければ、怪我をするどころの話では無かっただろう。
それでも、その怪我以来、何かが変わったような気がする。
頭を酷く打ち半年意識が戻らなかったからと言って、そうコロリと性格が変わるとも思えないが
確かに、何か、世界が変わった。
もの静かになった自分には、すぐに慣れた。
自分の命を救った黒川とは、なんとなく……、離れる事ができない。
事務所に戻ると黒川がいて、電話で、誰かに怒っているようだった。
仕事の不備をあげつらい、とにかく急げと発破をかけ
電話を切る前から「クソ」と悪態を付き、電話を切るとそれを机に投げつけ
弾み、ケータイは、床に落ちる。
一ノ宮はケータイを拾い上げ、黒川に渡し、ふふふと笑う。
黒川は一ノ宮を見て、ふん、と大きく鼻息を鳴らす。
それから一ノ宮は部屋の隅の小さな流しで、コーヒーを淹れるのだった。
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