2021年02月05日
今更、不思議
仕事が終わり、イツキは黒川の事務所へ向かう。
『夕方、来い』と連絡が来ては、何があってもそちらが優先。
事務所に着くと、中から何やら、騒がしい物音。
おそるおそる中に入ると、見たことの無い老人が床に手と頭を付き
黒川に謝罪か懇願か、とにかく、泣きながら何かを訴えていた。
黒川は部屋に入って来たイツキを見て
「すぐ終わるから。外で待っていろ」
と言って、手をひらひらと振る。
イツキは「…はぁい」と言って、奥にいた一ノ宮にも頭を下げて
事務所を出て、外の、階段の所で待つことにする。
暫くすると、ガシャンバリンと、物が壊れる激しい音が立ち
少し、静かになって………、数分して、先ほどの老人が階段を降りて来た。
青ざめた、憔悴しきった顔。どこか痛めているのか腹を押さえ、足を引き摺っていた。
イツキとすれ違いざま、イツキを見て
何故こんな若い子がここに、と、怪訝な顔を見せる。
「………あんた、ここに何の用事かね?………こんな場所…。……最悪だよ。
あいつ…、……血も涙もない………、……なあ、あんた……」
老人がイツキに話掛けたところで、事務所の扉が開き、今度は黒川が出てくる。
老人は黒川を見上げ「………ひっ」と小さく悲鳴を上げると、転がる様に駆け出し、逃げて行った。
黒川はふんと鼻息を鳴らし、行くぞ、とイツキに声を掛けた。
その後、二人で、近所の焼肉屋に行く。
黒川は普段通り、変わった様子もなく。
イツキに対しては時折、柔らかい表情さえ浮かべるのが
イツキには、不思議でならなかった。
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