2021年02月26日
微妙な空気
週末の百貨店。
夕方のピークの、少し前の時間。
特に問題が無くともフロアマネージャーの茗荷谷は
ホールを回り、各々の店舗に声を掛けるのが日課だった。
「……オツカレさまです。ハーバルさん。変わりはないですか?」
「…………あ。ダニー。…………ハイ、別に……」
店舗前で少しぼんやりしていたミカに、茗荷谷は声を掛ける。
ミカがどれほど呆けていたかと言えば、茗荷谷をあだ名で呼んだことに気付かない程だ。
そしてお互いぺこりと軽く頭を下げて
そのまま、少し、間が空いてしまう。
店的には変わりも無いし、連絡事項も何も無いが、
気に掛かる事が無い訳ではない。
ミカはイツキを心配していた。
午前中の仕事を終え、自分と入れ替わりで帰って行ったイツキの
様子が少し、変だった。
物静かというか落ち着いた風。どこか冷めても見え、寂し気。心ここに在らず。
かと言って、問いただす程でも無い気もする。ちょっとした違和感。
茗荷谷は、その仕事を終えたイツキと、詰め所で擦れ違っていた。
制服を着替え、いつぞやも見た黒いスーツを着込み
『お疲れ様でした』と言って、横を通り過ぎる時に
ちらりと、視線だけ流して微笑む姿が、異様に艶めいていた。
「……ねえ、このボディクリーム、小さいサイズは無いのかしら?」
ミカと茗荷谷が微妙な空気を醸す中、ふいに中年の女性客が声を掛ける。
ミカと茗荷谷は我に返り、慌てて、自分の仕事に戻るのだった。
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